そろそろプラットフォーム事業者とコンテンツ業界および消費者保護は真面目に取り組むべき分野として温度感が上がってきているように思っておりまして、今回のメルマガでもインシデントとして「2. 各国政府とビッグテックの諍いの行方やいかに」にて解説している通り政府が国民の生活を守るためにデジタルサービスとしてのプラットフォーム事業者に対し適切な形で管理していく必要があるのではないかという議論が今後も大きくなっていくことでしょう。
特に、今回批准された新サイバー犯罪条約については、各国のサイバー犯罪抑止のための枠組みが強く求められる一方、我が国外務省も相応に頑張って暫定合意、非公式合意として留保している条項を見ると、各国の政治的動機や主観によって日本のコンテンツ産業も含めた業界への影響も大きくなる可能性が予見されてきました。
また、出版業界や同人も含めたポップカルチャーにおいては、従来は表現の自由の枠内とされてきたイラストや漫画などでの表現も世界的に規制の対象となる恐れがあったところ、先駆けて国際的カードブランドがNGワード方式でこれらのコンテンツに対し決済を拒否する形で取引の制限を行い流通できなくする動きがあったことなど、多くの問題を抱えていました。
他方で、昨今問題視される生成AIと知的財産に関しては、著作権法の改正も睨んだ緊張が激化していく中で、いままでは脳内の想像であり規制の対象とはならなかった作品や表現においても、法的に問題のある画像や映像を教師データとした生成AIが生み出す創造物については違法となりかねない状況に発展してきています。
これまでも、ゲームや映画などでの暴力・性的表現を中心に倫理機構のような仕組みで年齢制限や流通規制が実質的に敷かれてきましたが、無限に生み出される生成AIの登場と普及によって、いままでとは異なる審査体制や法的枠組みが求められることも出てくることでしょう。
問題意識として、これらの実現においてはもっぱら日本でも海外のプラットフォーム事業者など巨大資本を持つビッグテックによってサイバー上の環境が司られ、ここで起きる問題については日本人が日本語で日本国内での取引を行っているにも関わらず日本の法律が適用されない事案が増えてきています。これは、デジタルサービスが行われるにあたり国内法規では日本人を守ることができないという重大な問題を抱えており、ある種の私人間効力やデジタル立憲主義的なアプローチも視野に入れて早期に対処していかなければならない問題へと発展していることをも示唆します。
さすがにマズいでしょうということで、今回はこの問題に以前から取り組んでこられた参議院議員・山田太郎さんを基調講演にお迎えし、今後我が国が問題を解決していくために何が必要とされるのか高い視座から議論をしていくシンポジウムを開催したいと思います。
関連して、昨今ネットでもよく騒動になる、反AI的なムーブメントについても言及したいと考えています。もちろん、既存のコンテンツを勝手に教師データとして流用して生成AIとして吐き出して作品にすることに対して、当然ながら嫌悪感を示す向きも増える一方で、今後は教師データとしてのソーシングも含めた適正使用の枠組みは著作権法改正と並んで大きな商業上のテーマになっていくことは間違いありません。
しかし、日本が具体的な政策を立案し人工知能分野での振興を進めるうえでも、法体系の整備と併せてかなり慎重な議論が必要な局面に入ってきました。
当情報法制研究所では、この方面の議論も踏まえて多くの有識者と共に問題を整理し、定期的にシンポジウムを開催していきたいと考えています。
新たな会員組織の立ち上げも含めて推進してまいりたいと存じますので、どうかご期待ください。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.451 日本のコンテンツ産業の未来を慮りつつ、能動的サイバー防御実現への課題やビッグテック規制の世界的動向を語る回
2024年9月1日発行号 目次
【0. 序文】「大阪でも維新支持急落」で第三極の未来に何を見るか
【1. インシデント1】中国富裕層の見極めをどうするべきか
【2. インシデント2】ロシア主導による「サイバー犯罪条約」が国連で採択された件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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